混合供託 <総説>  混合供託とは、民法第494条と民事執行法第156条を供託根拠法令とする供託である。 たとえば、債権譲渡の通知があった後、譲渡取消の通知があり、譲渡ないし取消の有効無効をめぐって 譲渡人・譲受人間に債権の帰属に争いがあるとき、債権が二重に譲渡されたがどちらが先に対抗要件を具備したのか 確定日付ある債権譲渡通知の送達の先後が不明の場合、また譲渡禁止特約付債権の譲渡があり 譲受人の善意悪意が不明で債権譲渡の効力が明らかでない場合には、 債務者の過失なくして債権の帰属者が分からないことから、債務者は債権者不確知を供託原因として 弁済供託をすることができる(民494)。  さらに、この債権の帰属が明らかでない場合に、当該債権に対して差押えがなされ、 差押命令が送達された場合(この関係では、当該債権の債務者は第三債務者ということになる。)、 債権の譲渡等の行為が有効であるか無効であるかにより、差押命令が有効となるか無効となるかの問題が生じる。  そこで、債務者に対する全体的な債務免責の供託の効果を及ぼすため、 債権の帰属の争いに対しては民法第494条による債権者不確知による弁済供託、 差押えに対しては民事執行法第156条等による執行供託を1通の供託所によりまとめて申請することを認め、 供託後は実体上の権利関係の確定により、還付手続に進む方策が実務上認められたものである。 <事案>  AはBに対して、譲渡禁止特約が付されている売買代金100万円の支払債務を負っており、 その弁済の場所はAの住所地である。 そして、債権者C,債務者B,第三債務者A,差押債権額80万円の債権差押命令がAに送達された。 その後、譲渡人B,譲受人D,債権譲渡額40万円の債権譲渡通知がAに到達し受領された。 さらに、債権者E,債務者B,第三債務者A,差押債権額100万円の債権差押命令がAに送達された。 <事案の分析>  本件事案は、@債権の一部に対する差押命令の送達の後、A譲渡禁止特約付債権の債権譲渡通知があり、 その後、B他の債権者から同一の債権全部に対する差押命令が送達された場合である。  この場合Aの債権譲渡は、譲受人Dが善意であれば有効となり、譲受人Dが悪意であれば無効となる。  まず、Aの債権譲渡が有効である場合には、@のCの差押えの後に債権譲渡がなされているので、 当該譲渡は、Cの執行手続が続行している限り、被差押債権100万円のうち、その差押債権額80万円については 効力を主張できないことになる。また、BのEの差押えについてはその効力を発揮する余地が無いものと解され、 ただ第三債務者が執行供託をした時点より前に差押えをした差押債権者に 配当要求の効力が認められるので(民執165@)、債権譲渡が有効であれば、 100万円のうち80万円についてCの差押えに対してEが配当要求したことになり、 第三債務者たるAは,民事執行法第156条第2項により80万円の供託義務を負い、残りの20万円については、 別途にDに弁済することになる。  これに対して、債権譲渡が無効である場合には、Bの差押えは有効であり、 したがって、@の被差押債権100万円のうちの一部80万円についてCが先行の差押えをし、 さらにBでEが被差押債権100万円の全額につき後行の差押えをして、差押えが競合することになるので、 第三債務者たるAは民事執行法第156条第2項により債権全額の供託義務を負うことになる。  結論として、Aの債権譲渡が有効であれば、債権のうち80万円について供託義務が生じ、 Aの債権譲渡が無効であれば100万円の全額の供託義務を負うことになるので、 80万円ないし100万円の執行供託の供託義務および20万円の債権者不確知による弁済供託のそれぞれを 行いうることになるから、これらについて債権全額である100万円について執行供託と弁済供託の混合供託を 債務履行地の供託所にすることができることとなる。  本件事案においては、債権譲渡の譲受人Dが20万円の還付請求権を取得する場合がありうるので、 供託書には、被供託者としてDの住所および氏名を記載しなければならない(供託規13IIIE)