使用貸借契約・賃貸借契約


【使用貸借契約】
 ☆有償の賃貸借契約とどこが違うか。

Case  @XがYから無償で借りている家の外壁に欠陥があり雨漏りが生じた。XはYに対して修繕を要求できるか。雨漏りによりXの家具が傷んだ場合はYに何らかの請求ができるか。
 A使用借人Xは貸主Yから目的物の所有権を取得したZの立退請求を拒めるか。
 B契約に期間も目的も定めていない場合、貸主は、どういう状況になれば契約関係を終了させて返還を請求できるか。
 

1 使用貸借の意義・法的性質・社会的作用

 ・返す債務を中心に構成された片務・無償・要物契約(593条)。
 ・親族間などの特殊関係(人的な信頼関係)に基づく。契約書が作られることも少なく合意自体の認定が必ずしも容易ではない。
    最判平成8年12月17日判時1589号45頁:共同相続人の一人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人として同居している場合、被相続人の死亡から遺産分割終了までの間は共同相続人全員を貸主とする使用貸借契約関係が存続する。

 
2 成立要件
 ・無償の使用許諾+返還約束+現物の授受(要物契約)

 
3 効果
(1) 貸主の義務と責任
 ・積極的に使用収益をできるようにする義務や目的物引渡義務はなく(予約は可能)、所定の期間の使用収益を忍容して妨害しない消極的義務を負うのみ。
 ・悪意の黙秘の場合のみ瑕疵担保責任を負う(596条→551条1項)。
(2) 借主の権利義務
 ・用法遵守義務・譲渡転貸の原則禁止(594条1・2項)
  →義務違反があれば、貸主は契約解除(告知)and/or 損害賠償請求(594条3項)。
 ・通常の必要費の負担義務(595条1項)。特別な必要費有益費は償還請求可能(2項)。
 ・契約終了時の原状回復返還義務と収去権(593条・598条)。
(3) 第三者に対する関係
 ・使用借権には対抗力が欠ける。新所有者などに対して使用権を主張できない。
 ・不法妨害者に対しても占有訴権のみ

4 終了
 ・借主の側からの返還は原則としていつでも可能なので、貸主の返還請求が可能となる時期が問題となる。
  @返還時期の定めがある場合 その時期が到来すれば直ちに返還請求可能(597条1項)
  A返還時期の定めがない場合(597条2項)
   イ 目的の定めがある場合 (1)目的達成時(本文)
                      (2)相当期間経過後は解約・即時返還請求可能(但書)
   ロ 目的の定めがない場合 いつでも解約・返還請求が可能(597条3項)
    [判例]:兄弟間の対立と扶養の一方的終了などから、当事者間の信頼関係を欠くに至れば、同族会社の経営と老父母の扶養などを目的とする土地使用貸借は、597条2項但書の類推適用により解約できる。
   最判平成11年2月25日平成10年(オ)第513号事件(http://www.courts.go.jp/):契約締結時より38年8ヶ月を経過し、同居していた父が死亡し、その後同族会社の経営をめぐって兄弟が対立するなど、人的つながりが著しく変化していれば、建物が朽廃しておらず使用借人に他に居住場所がなく貸主(会社)に土地使用の必要性がないとしても、相当期間の経過を否定することはできない。
  B借主の死亡により常に契約関係は終了(599条)←→賃貸借なら相続される
 ・後始末関係(用法違反の損害賠償や費用償還)には1年間の短期期間制限(600条)。
  目的物自体の返還を不能にしてしまった場合は短期期間制限にかからない?


 
 
【賃貸借契約の意義と法制の概観】
1 賃貸借契約の意義・法的性質・社会的意義
 ・使用収益させる債務賃料支払債務の双務・有償・諾成契約(601条)。
 ・目的物は多様だが生活・営業の本拠となる不動産の賃貸借がとりわけ重要
  →主要法制もこれに集中。動産では約款による自主的規律に任せている。
 ・類似のもの レンタル:動産(自動車・CD・ビデオ etc)の短期の賃貸借
          リース :高額物品を賃借するが、金融と結合するファイナンス・リースや節税目的のもので、売主・買主兼貸主(リース会社)・借主の三面契約。

2 不動産賃貸借に関する特別法
 ☆民法上の賃貸借契約のどういう点がなぜ修正されているのか。
(1) 立法者の構想(他人の不動産利用には強力な物権である地上権永小作権を使わせる:例 地上権ニ関スル法律(明33)−地上権の推定)の挫折、地震売買の横行など
  ←社会経済的力関係の不均衡(貸主優位−旧民法が賃借権を物権と構成したことにも強い反発があった)、資本主義化に伴う都市部への人口集中
(2) 主要な特別法とその目的
 イ 建物所有目的の借地(地上権+賃借権)と建物賃貸借
  ★建物保護ニ関スル律(明42):借地上の建物登記で借地権に対抗力を認め、地主が交代しても「売買は賃貸借を破らない」ようにする(地震売買対策)。時代的制約からあくまで建物の保護による国民経済的損失の防止が目的。
  ★借地法・借家法(大10):賃借人保護の諸制度(付録参照)を数次の改正で充実
    →いわゆる不動産賃借権の物権化自由譲渡性を除く)。
  ★借地借家法(平3):上記三法を統合・修正するほか、三種の定期借地権などを導入して、借地供給の拡大を狙う。
  ・1992(平4)年8月1日以前の契約には原則として旧法が適用される。
 ロ 農地関係
  ・農地調整法(昭13):引渡で農地賃借権に対抗力を認める
  ・戦後の農地解放で自作農中心の農業に変わったほか、農地法(昭27)は、農地賃借権につき、解約制限、更新保障、許可制、小作料の制限、対抗力強化などを規定
 ハ 公営住宅関係  公営住宅法や各地方公共団体の条例
 ニ 天災後の処理 罹災都市借地借家臨時処理法(昭21):罹災借地権の対抗力強化、や優先借地権・優先借家権など


 

民法605条(不動産賃借権の対抗要件)

不動産ノ賃借権ハ之ヲ登記シタルトキハ爾後
其不動産ニ付キ物権ヲ取得シタル者ニ対シテモ其効力ヲ生ス

<参照>民177、民395・566U・581U

 

趣旨

不動産賃借権に対抗力を付与しうるものとし、賃借人の保護を図った。しかし、賃貸人は登記に非協力的であるうえ、賃借人には登記請求権が認められていないため、
十分に機能せず、特別法により保護が図られている。

 

注釈

1. 対抗力を具備するための要件として、不動産賃借権の登記が必要である。
借地借家法では、借地人の所有する建物についての登記があれば、借地権は排他性を生じる(同法101項)として、賃貸人の協力なしに賃借権に排他性を備えることができるとした。また借家関係では、建物につき引渡があれば対抗力があるとした(同法311項)。

2.             借地借家法101項(旧建物保護法1条)に関する判例

(1)   登記の建物所在番地表示が実際と多少相違していても、
その登記の表示全体から建物の同一性を認識できるような場合であればよい。

(2)   建物の登記は表示の登記でも可。

(3)  同居の長男名義の登記では対抗力は認められない(最判昭41.4.27)。

3.登記した賃借権の効力

(1)  所有権に対する効力

  不動産の所有者に変更があっても、新所有者に賃借権の効力を主張しうる。
その結果、新所有者は賃貸人の地位を承継し、旧賃貸人はその関係から離脱する。

(2)  用益権に対する効力

  用益権が債権の場合、その効力が否認される。
物権の場合、賃貸借関係はこの用益権者との間に移行される。これが不可能な場合は用益権の効力は否定される(通説)。

(3)  担保物権に対する効力

  担保権(とくに抵当権)が実行されても、賃借権は消滅せず、
賃貸借関係は競落人との間に移行する。

(4)  妨害排除請求

  対抗要件を具備した賃借権に妨害排除請求が認められる(最判昭28.12.8)。

【賃貸借契約の成立】
1 諾成契約性
 ・約款が使用されることも多いが、個々の条項の拘束力は慎重に判断すべきである。
 ・法律による賃借権の成立 例 仮登記担保法10条の法定賃借権 

 
2 特別法上の賃借権の成立要件
(1) 借地借家法上の借地権
 ・借地権=建物所有目的での地上権・土地賃借権(借借2条1号)。一時使用目的の場合は借地借家法の主要な保護は適用されない(借借25条)。
   ×ゴルフ練習場(最判昭和42年12月5日民集21巻10号2545頁
     ○自動車教習所(最判昭和58年9月9日判時1092号59頁)
     ×幼稚園鄰接の運動場(最判平成7年6月29日判時1541号92頁)
(2) 借地借家法上の借家権
 ・借家権=一時使用目的(借借40条)以外の建物賃借権すべて
 [判例]:卒業後見習い期間中に限る3年の賃貸借。諸般の事情を総合考慮。
 ・社宅や公営・公団住宅にそのまま適用されるか?

 
3 契約成立時に授受される金銭
 (1) 敷金  賃貸借契約上の賃借人の債務を担保するため交付される金銭。返還される。
 (2) 権利金 場所的利益、賃料一括前払(利用権そのものの対価)、譲渡性肯定の対価など多様。契約時に返還を要するか否かも一律には決められない
  [判例]:短期の合意解除でも場所的利益の対価は返還を要しない。
 (3) 礼金  京都の慣習法。返還されない一種の契約料ないし権利金的なもの。
  (1)〜(3)を合わせた性格の保証金が授受される場合もある。
 (4) 更新料・譲渡転貸や借地上の建物の増改築承諾料
  [判例]:更新料不払いによる解除を認めた例。一般には支払義務なし。
 (5) 建設協力金 賃貸借契約とは別個の消費貸借契約だと考えられる
  [判例]:新家主は返還義務を承継しない←→敷金返還義務は承継される


「敷金返還」と「解約・更新拒絶」について

敷金の意味

 敷金とは、借主が賃料不払いなど貸主に損害を与えた場合に、賃貸借終了時にその損害額を差し引いて返還することを予定して、賃貸借の契約時に借主から貸主に預けられた金銭のことをいいます(大審判大15.7.12)。


敷金によって担保される範囲

 敷金によって担保される貸主の債権範囲は、賃貸借契約の存続中の未払賃料や室内の損壊などによる損害賠償請求権だけでなく、賃貸借契約の終了後建物を明け渡す時までに生ずる賃料や、建物の毀損などによる損害賠償請求権を含みます(最判昭48.2.2)。


貸主が代わった場合の敷金返還請求

 賃貸借契約の途中で貸主が代わって、それまでの貸主が新貸主に対して敷金を支払っていない場合でも、賃貸借契約が終了したときは新貸主は敷金を返還しなければなりません(最判昭44.7.17)。


敷金の返還はいつ求めることができるか

 賃貸借契約が終了しても、直ちに敷金を返還する必要はありません。
 敷金は、建物の明け渡しまでに貸主に生じた一切の損害を担保するものですから、敷金は建物の明け渡しを受けてはじめて返還義務が生じます。また、返還額も、建物の明け渡しまでに生じた修繕費用などの損害額を差し引いた残額についてのみ返還義務が生じます(最判昭48.2.2)。


敷金の返還と建物の明渡しはどちらが先か

 貸主は、借主が建物を明け渡したときにはじめて敷金返還義務が生じ、あくまで借主の建物の明け渡しの方が先になされなければなりませんから、借主は敷金が返還されないからといって建物の明け渡しを拒むことはできません(最判昭49.9.2)。


返還時に差し引く金額を予め定めることができるか

 契約時に敷金から差し引く金額を一定額または一定割合と定めることも、判例上一般に認められています。
特に、関西では「敷き引き」と呼ばれ、広く行われています。


敷金返還に関する特約

 天災などの不可効力により建物を使用することができなくなった場合には敷金を返還しない、という特約を結んだとしても、判例上その特約は無効とされています。したがって、地震によって建物が損壊し使用することができなくなり賃貸借契約が終了した場合には、敷金を返還しなければなりません(大阪地判平7.2.27)。


借主からの解約申入れの場合

 賃貸借契約に期間の定めのない場合には、いつでも借主から解約の申入れができますが(民法617)、期間の定めのある賃貸借においても、解約権を留保する旨の特約がなされていれば、期間の途中であっても借主から解約申入れができます(民法618)。
 ただし、借主が解約申入れをしても、即時返還特約がない限り、賃貸借契約が終了するためには解約申入れ期間を経過することが必要です。なお、借主の解約申入れ期間は特約によって定まりますが、特約がない場合は3ヶ月となります(民法618、617)。

 ところで、借主が解約申入れ期間経過前に明け渡した場合であっても、それはあくまでも権利の放棄に過ぎませんから、解約申入れ期間経過までの賃料支払い義務が当然に免除されるものではありません(東京高判昭59.10.16)。このため、この場合借主はなお解約申入れ期間満了までの賃料等を支払わなければなりません。
 また、借主の都合による期間中途解約の場合、次の借主が入居するまで賃料を支払う旨の約定も公序良俗に反せず有効であるとしている判例もあります(東京地判昭45.2.10)。


貸主からの解約申入れ・更新拒絶

1.貸主は、期間の定めのない賃貸借契約については6ヶ月前に解約申入れをすることができ、期間の定めがある場合は期間満了前の1年ないし6ヶ月前に更新拒絶の通知をし、かつ、期間満了後に借主が建物の使用を継続している場合には、遅滞なく異議を述べなければなりません。その上、貸主が解約申入れ・更新拒絶の通知をするには、正当事由が備わっていることが必要となります(借地借家法26@、27A、28)。
2.正当事由には、以下の事情が考慮されます(同28)。
イ. 貸主および借主が建物の使用を必要とする事情。
貸主が建物を自ら使用する必要がどの程度あるか、借主がほかに使用できる建物があるか。使用目的が居住目的なのか、営業目的なのかなど。
ロ. 賃貸借に関する従前の経緯。
賃貸借をすることにした経緯、権利金などの支払いの有無および金額、契約上の義務の履行状況など。
ハ. 建物の利用状況。
借主が当該建物をどのような目的・態様で利用しているか。
ニ. 建物の現況。
建物の老朽化により大修繕・建て替えが必要になっていることや、建物敷地の利用権利の喪失のために建物の利用が困難になるなど。
ホ. 貸主による財産上の給付の申し出。
立退料の提供がこれに当たるが、立退料の提供のみで正当事由があると判断されるものではなく、ほかの諸事情とともに立退料の提供があるときに正当事由があると判断されます(最判昭46.11.25)。
立退料の算定には、借家権価格、造作買取価格、営業上の損失に対する補償、移転実費、慰謝料、開発利益などが考慮されます。


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